事故収束・廃炉作業、日本独力では達成不可能-ニューヨークタイムズ4月10日 by田淵弘子 本文へジャンプ
 
複数の原子炉がメルトダウンした事故発生から2年以上、最近発生した一連の不測の事態 – ネズミの感電死による電源喪失、数百トンに上る高濃度の放射能汚染水の漏出事故は、福島第一原発の現状が如何に不安定な状況にあるかを、改めて明らかにしました。

こうした事態に、数十年かかると予想される事故の収束作業、そして廃炉の作業を東京電力は周辺住民や環境を再び危険に追い込むこと無く、実行可能なのかどうか疑問視し、これらの作業を任せきりにすべきではないと指摘する専門家が増え続けています。

それと同時に新たな監視機関である原子力規制委員会の、人員不足も明らかになってきました。
同委員会は10日水曜日、福島第一原発の現場に9人の係官を派遣することを発表しましたが、この人数で事故現場で働く3,000人の監督を行わなければなりません。

「福島第一原子力発電所は依然不安定な状態のままにあります。そして、さらなる事故の発生を防止できないという懸念があります。」
原子力規制委員会の田中俊一委員長は、記者会見でこう語りました。
「我々はすでに東京電力に対し、最も大きな危険のいくつかを取り除く取り組みを続けよう指導していますが、私たち自身の監視機能のステップアップも進めていきます。」。


ここ数日で明らかになった中で最も大きな脅威は、地下に7か所ある汚染水の貯蔵施設のうち、少なくとも3か所から数百トンに上る汚染水が、地中に漏出しているという事実です。

10日水曜日東京電力は、汚染水を安全に貯蔵する施設の不足が危機的状況に陥っていることを認め、地下の貯蔵施設から汚染水を取り除く作業を行うと発表しました。
しかしこの作業が完了し、全ての汚染水を別の施設に移すまでの数週間、尚、汚染水の漏出が続く見通しであることを明らかにしました。

この地下貯蔵施設は、現場の作業員たちが半年ほど前に穴を掘って作りました。
福島第一原発では毎日400トンずつ、汚染水が増え続けていますが、その原因は2つあります。
ひとつは3月11日に襲った巨大地震と巨大津波が重要な設備である原子炉冷却システムを破壊したため、代わりに建造された臨時の冷却システムが原子炉を冷却した際に出る汚染水。
もう一つは地下水が破壊された原子炉の下に流れ込み、汚染されてしまって出来る汚染水です。

東京電力はすでに福島第一原発の施設内に25万トンの汚染水を貯蔵していますが、この3年以内にその量が2倍の50万トンに達する可能性があると語っています。


しかし、外部の専門家はその汚染水『貯蔵施設』のお粗末さに慄然としました。
東京電力はそれぞれ厚さ1.5ミリメートルしかないビニールを2枚、そして厚さが6.5ミリメートルの粘土製の合計3層しかない地下『貯蔵施設』を製作していたのです。

この構造のため、多数のシートの縁を縫い合わせる必要があり、東京電力はこの縫い目の部分から汚染水が漏出した可能性があると語っています。

「これでは水が漏れだしても、不思議ではありません。」
茨城大学・土木工学科の小峰秀夫教授が、このように語りました。
教授は地下貯蔵施設については、東京電力が作ったものの数百倍の厚さが必要だったはずだと指摘しました。

東京電力の広瀬直美社長はこの件について謝罪を行うために福島県を訪れましたが、そのことは周辺住民に一層の苦悩を与えることになりました。
東日本大震災による福島第一原発の事故発生以来、今なお約160,000人の住民が避難生活を強いられ、発電所の周囲では広大な面積が立ち入り禁止区域になったままです。

広瀬社長は地下貯蔵施設の使用をやめ、汚染水すべてを地上のタンクに移し替えると語りました。
しかし東京電力によれば、その作業には5月いっぱいかかる予定だと語りました。
広瀬社長は地下貯蔵施設から海までは約800メートルの距離があり、海への流出の恐れは無いと思われる、そう語りました。
「可能な限り早く、地下貯蔵施設からの移送作業を完了させるつもりです。我々はこの問題が、緊急に対応しなければならない危機的状況にある事を十分認識しています。」


しかし東京大学大学院公共政策研究部門で、原子力発電所の安全対策を専門とする諸葛宗男氏が以下のような指摘を行いました。

東京電力はこれ以上の汚染水の発生を恒久的に減らすための、根本的な対策を講じるべきである。しかし、東京電力にとって、それは容易に実現できるものでは無いというものです。

「東京電力に、事故の収束作業を完璧に行う能力が無いことは、もはや明白になりました。」
諸葛氏がこう語りました。
「東京電力には、原発事故収束のための専門知識が全くありません。そして福島第一原発が発電を行うことは二度とあり得ない以上、収束作業のために使われる費用は、全く利益を生まない出費であるという事になります。」
「そのことはまさに、手抜きにつながっていくことになります。こうした構造は、きわめて危険です。」

「東京電力にその能力が無いことはもちろんですが、日本だけでこの問題を解決することは不可能です。この作業には、日本政府が直接関与する必要があります。世界中から責任をもって専門家と技術を結集し、事故収束・廃炉作業に取り掛かる必要があるのです。」

福島第一原発の事故後実質的に国有化されている東京電力は、財政的にも困難な状況にあります。
このため福島第一原発で事故収束作業に従事している下請けの緊急作業員に対しても、厳しいしわ寄せがいくことになりました。

この問題に関わる医師、弁護士、そして労働組合関係者によれば、下請け作業そのものの削減に加え、賃金や手当も大きく減らされてしまいました。


厳しい条件での労働を強いられている緊急作業員たちの姿が、福島第一原発の南約16キロの場所にある、元のスポーツ施設であるJ-ヴィレッジにあります。
彼らは現場に向かうバスに乗り込む前に、防護マスク、防護服に身を固めます。

疲れ切った彼らに許されるのは、仮眠室の薄っぺらなマットレスの上での居眠り。
最下層の労働者である自分たちに、ぜいたくは許されないと彼らは言います。

休憩時間には敷地内をぶらぶらするか、さもなければ自動販売機の前でたむろしているしかありません。

防衛大学医学部病院、精神医学科講師の重村淳医師は、福島第一原発の作業員たちに対する無償奉仕の医療活動を行っています。
重村医師は、作業員たちの間に外傷性ストレス症候群、そしてうつの徴候が見られると語りました。
これらの症状が作業員たちの仕事中のミスの原因になる一方、薬物濫用や場合によっては自殺にすらつながる可能性のある事について、重村医師は心配しています。
「彼らを救うための何らかの対策が必要です。それは彼ら自身のためである一方、福島第一原発の安全のためでもあります。」

一部の専門家は、汚染水が太平洋に入り込み続けていたはずだと語ります。
東京海洋大学の海洋科学者である神田穣太氏は、『バイオジオサイエンス(Biogeosciences)』のウェブサイトのディスカッションペーパーにこう投稿しました。

「東京電力自身の海洋中の放射線量の測定結果は、放射性セシウムが海洋中に継続的に流れ込んでいることを示唆している。」
「これらの汚染水は破損した配管類、側溝、あるいはその他を経由して、海洋中に流れ込んでいると考えられる。」


この時福島第一原発では、大事故の発生につながりかねない別の問題が発生していました。
大量の使用済み核燃料を収納している核燃プールを冷却するための電力の供給が、2日間停止してしまったのです。
後の調査により、その原因は一匹のネズミが電源ケーブルをかじり、感電して回路をショートさせてしまった可能性があることが解りました。

そしてその1週間後、今度はそうした小動物の侵入を防ぐためのネットを設置する際、作業員が誤って電源を切り、再び冷却装置を停止させる事故が発生してしまったのです。

http://www.nytimes.com/2013/04/11/world/asia/fukushima-nuclear-plant-is-still-unstable-japanese-official-says.html?pagewanted=all