原発問題について 本文へジャンプ
 

2012/07/24
以下枝廣淳子さんのメールニュースを引用します。

No. 2115 (2012.07.24)
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民間事故調、国会事故調、東電事故調につづいて、政府事故調の報告が出ました。
昨年秋に、スイス原子力安全規制局が「福島の教訓」という報告書を出したそうです。その第5章にある「教訓の要約」を北海道大学の吉田文和先生が訳されています。ご快諾をいただきましたので、ご紹介します。
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福島の教訓 2011年3月11日 −スイス原子力安全規制局 2011年10月29日−
吉田文和(北海道大学大学院経済学研究科教授)訳

第5章 付録:教訓の要約
スイス原子力安全規制局は、福島原発事故の包括的分析を行い、その結果を2つの報告で公表している。その調査結果によれば、事故を招いた一連の組織的、技術的不適切さを示している。この分析からの知見をここに、39 の教訓としてまとめる。
これは、一方で事実による裏付けがあるが、他方で仮説に基づいている(2011年8月までに得られた情報)。一連の教訓は、内容的に限界はないが、これまでの深められた分析を要約している。

教訓1 学習する組織を発展させない欠陥
国内および国際的事故の経験が十分に考察されていない。2007年のIRRS(IAEAの総合的規制評価サービスIntegrated Regulatory Review Service)委員会が求めた事故について、何も公式の検討がなされず、国外の事故から改善措置が日本の原発でとられていない。

教訓2 貧弱な企業文化
経営者は、偽造と隠蔽を助長する企業文化のもとにあるように見える。

教訓3 経済的配慮から安全を制限した
経営企業は、2010年の年報において、コスト節約プログラムのもとで設備検査の回数を減らしたと述べている。

教訓4 保安院が経済産業省に依存している欠陥
保安院は、経済産業省の一部である。これは利益相反であり、結果にいたる決定構造の不透明性をもっている。

教訓5 検査における全体システムの構造的欠陥
日本の検査機関の役割と責任は不明確に規制されてきた。

教訓6 不十分な検査の深さ
検査機関は、設備の建設と運転に当たり、津波と安全などをただ表面的にしか検討しなかったという大きな誤りを犯した。

教訓7 企業の安全文化の欠陥
安全検査がなおざりにされ、あるいは偽造された。その結果は欠陥のあるメインテナンス管理であった。

教訓8 意思決定到達の欠陥
海水注入がもっと早く行われるべきであった。多くの理由で、会社・検査機関・政府(首相)が不十分な意思疎通のために、時機に適した決定を妨げた。決定のために必要な設備のパラメーターが連続的に検査されなかった。

教訓9 非常事態対処に対する不十分な準備
日本では、非常事態に対する準備が企業の自主的取組に任された。既存の緊急対処計画は多くの欠陥があった。過酷事故に対する不適切な手立て(過酷事故管理指針:SAMG)が技術的に行われ、連絡手段も貧弱であった。外部の非常対策が節約され、全体のインフラが同時に破壊されることを十分に考慮していない。この大きさの非常事態に対して、要員が不十分にしか用意されていなかった。
外部事件(地震、津波など)のコントロールに対する追加システムが日本では、できるだけ部分的にしか行われていない。

教訓10 要員への過大な要求
非常事態のインパクトを緩和する過酷事故管理手段が適切に実施されないので、大規模で長期間にわたる放出が続いた。

教訓11 規制上の欠陥
非常事態への対策が、法律に基づいて適切に規制されなかった。

教訓12 当局の非常事態計画の遅れ
地域の危機管理部隊が準備されず、呼び出されず、関係者の連絡がとれなかったという問題がある。加えて、国際的援助の調整も十分でなかった。

教訓13 不十分な放射線防護手段
洪水の結果、要員に対して不十分な被ばくメーターと防護手段しかなかった。

教訓14 住民に対する不十分な情報
住民に対して、放射線被害と汚染の予想される展開についての情報は不十分で、後で知らされた。

教訓15 グループ力学の危険性(訳注、原子力ムラ問題)
これまでの企業経営で、リスクを過小評価し、警告と事実を無視し、企業の運営内部で可能なかぎり集団主義、自己満足、自信過剰に陥っていた(訳注「原子力ムラ」問題)。

教訓16 過酷な作業環境
事故が起きて、スタッフは非常に過酷な物理的・精神的なストレスのもとにおかれた。事故が起きて、実情についての知識もなかった。

教訓17 放射能の状況が不明
危機対応が困難であったのは、放射能の状況がとくに初期において不明であったからである。

教訓18 過酷事故への不十分な準備
経営者は設備の安全に責任がある。最強の地震と津波の高さへの予想が不十分であった。そのために、設備の設計が不十分であった。津波の適切な解釈がどの程度、監督庁によってテストされたかは不明である。非常用ディーゼル発電機が波をかぶり、除熱できなくなった。ただ福島第一原発の6号機の空冷エンジンのみが作動し、のちの5号機、6号機に利用できた。

教訓19 建築構造の不備
原子炉建屋上部にある使用済み核燃料プールは、非常対策を困難にした。そのうえ、ケーブルとパイプが密閉されていないために、原子炉の汚染水やベントガスを受けた。

教訓20 安全レビューへの欠陥のある義務付け
安全部門の弱点が、WANO(世界原子力発電事業者協会)、OSART(IAEAの運転安全調査団)などの国際的な検査や国内の定期検査で解決できなかった。これは、事業者の自主規制を扱うWANOの改善手段の問題ではなく、外部への透明性のない自主規制の問題である。IAEA との契約で行われた OSART の専門家の改善提案は、自主的なもので、何ら義務的なものではない。定期検査は、国際的な要求と異なる規制である。

教訓21 不適切で欠陥のある操業
非常用復水器の技術的適正基準に基づく第1号機の非常用復水器の手動停止(おそらく1本のロープ)は、地震発生から 10 分後であった。非常用復水器のバルブは、交替班長の知識がなかったので、後に閉じられていた。その結果、後の事故のために非常用復水器は自由に扱えなかった。

教訓22 非常用設備の復旧のさまたげ
非常用手段の実施(SAMG)は、停電と津波の結果、施設部分の障害(破片)のために、妨げられた。携帯電源の接続が第一に確立されるべきであったが、これがすぐに作動しなかった。海水供給の準備は、不測の事態の技術的問題があった。

教訓23 電気設備の不備
非常用電源の全面的な脱落の結果として、第1号機、第2号機、第4号機の照明と設備が稼働しなくなった。これらのシステムは困難な条件のもとで操業せざるをえなくなった。例えば、圧力容器の水位表示計の損傷がおきた。

教訓24 局所的な条件が非常用手段の妨げとなった
コントロール・ルームの放射線が急激に上昇し(一時的であれ)、オペレーターの数を減らし、一時的に全てのオペレーターが避難しなければならなかった。同じことが非常免震棟についても当てはまる。同じように放射能の条件が通信手段を悪化させ、照明設備の故障のために、非常用手段の指示と実施を妨げた。

教訓25 通信手段の不十分な準備
非常用と命令伝達のための通信手段が当初、部分的に使用できなかった。福島第1原発の外線電話と携帯電話も同様であった。

教訓26 ベントの問題
ベントの実施に困難がともなった。バルブの電気駆動装置は、停電のために動かなかった。したがって、コントロール・ルームから操作できなかった。バルブの手動操作は、アクセス困難のために、不可能であった。そして、高度の放射能のために、バルブを開くことが何度も妨げられた。

教訓27 不十分なメインテナンス
安全上、重要な設備が十分にメインテナンスされていなかったという非公式の情報がある。どの程度、この情報が正しいかは明らかでない。

教訓28 技術的に条件づけられた遅れ 海水注入の遅れの可能性があり、これは圧力容器の圧力が下げられなかったからである。それは、まだ存在していた崩壊熱への冷却水の注入量が十分でなかったからである。

教訓29 水素爆発に対する不適切な予防
水素の漏れによる原子炉建屋の爆発が予想されなかった。したがって、原子炉建屋内の水素爆発を防ぐ手段も用意されていなかった。

教訓30 非常用対策の設備と人員の弱点
非常用対策の実施が困難だったのは、設備のブロックとシステムが互いに独立していなかったからである。これらは使用中のパイプ、ケーブルダクト、圧縮空気供給、非常用ディーゼル、共同排気口が一緒になっていた。ブロックごとの人員に重複があった。これは非常事態に際しての人員の節約につながった。

教訓31 不十分な電力供給
電力供給が、非常事態に対して不十分であり、ほとんど多様化していなかった。

教訓32 安全設備の不十分な防護
非常時に求められた安全設備を、津波が損なった。おそらく冷却水の循環を停止させ、建物への空気取り入れ口が水の浸入を招いた。

教訓33 使用済み核燃料の欠陥のある冷却
使用済み核燃料の冷却の欠陥は、これまでリスクとは見られていなかった。それは熱の発生が比較的少なく、冷却の復旧のための時間と技術的可能性が致命的ではないと見られていたからである。福島では、建物の強度の損傷によって、冷却の循環設備のいくつかがだめになり、技術的に不能になった。

教訓34 水供給の不足
原子炉圧力容器への内部の水供給ができず、3月12日に海水注入がはじまった。

教訓35 ホウ素準備の不足
ホウ素の備えがなく、報道によって求められて、数日後にアメリカからホウ素の提供があった。

教訓36 事故の際のパッシブ・システムの入手性
東電と保安院によれば、第2号機は、炉心冷却装置のバッテリー容量が切れた後も、たぶん 30 時間稼働していたと結論づけている。このことは、過酷事故のもとでも、実際に要求される設備がないもとでも、操業が可能であり、目的にかなっていることを示している。

教訓37 損なわれた環境監視
適切な放射線の環境監視は、事故の後では、直接不可能となった。それは地震と津波で適切な設備と施設が被害を受け、破壊されたからである。

教訓38 不十分な廃水処理
事故において大量の放射能が水を汚染した。当事者は、この水を一時的に貯蔵し、浄化し、処理し、海と土壌への放出を防ぐために、大きな困難を伴った。

教訓39 危険物質
放射性物質のほかに、人々の健康と生態系に有害な物質の放出があった(石油、油脂、腐食性物質)。
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