「データの公開・評価を徹底 長瀧重信・長崎大名誉教授
低線量被曝による健康リスクについて、政府は昨年12月、住民に避難を指示した基準となった「年間20ミリシーベルト」を「線量低減を目指すスタートラインとしては適切」との見解をまとめた。私が共同主査を務めた内閣官房の作業部会では、科学的事実から出発して、「年間5ミリシーペルトにすべきだ」という意見をはじめ、さまざまな意見の方を招き、インターネットで公開して論議した。
本来は昨年4月に計画的避難区域などを決める段階で、このような論議が十分であったとは言い難く、政府が不信を招いたのは否めない。
放射線の健康影響について国際的に合意を得られた科学的事実としては、@広島・長崎の原爆被爆者調査がある。「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」の報告書では、100〜200ミリシーベルト以上の放射線を被曝するとがんのリスクが増えるが、それ未満の低線量ではリスク増加が認められないとする。 A「認められない」とは、はっきり認められる影響より小さいという意味だ。 「分からないから危険だ」という話ではない。
B一方で、国際放射線防護委員会(ICRP)勧告によると、原発事故直後の緊急時被曝状況では、避難など対策を講じるレベルを年間20〜100ミリシーベルトの範囲から選ぶことになっている。100ミリシーベル以下であっても被曝は少なければ少ない方が良いという防護の考え方であって、年間20ミリシーベルトを 超えたら危険という境界があるという意味ではない。
チェルノブイリ原発事故後、支援のため現地を訪れた。政府は信頼を失い住民は大きな不安の中にあった。C学んだ教訓は、行政の徹底した情報公開、専門家の一致した確かな情報の評価、評価をもとに行政と住民が対話しながら対策を決めていくことの大切さだ。
今の日本も、政府や専門家が住民の信頼を得られにくい。そういう状況でも、専門家が科学的事実から出発して説明しなければ、確かでない情報によって結果的に被災住民がさらに被害を受けることになってしまいかねないからだ。 |
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